研究機構について

設立趣旨

RNAは、重要な生体高分子の一つで、スプライシングや、タンパク質合成を通じて、生命の維持において不可欠な機能を担っている。また、HIVやインフルエンザなど多くの病原性ウイルスのゲノムはRNAで構成されており、その意味ではDNAを代替するような働きも担っている。一方近年では、miRNAやlong non-coding RNA(lncRNA)がさまざまな生命現象の制御に関与していることが知られてきた。こうしたRNA群の中にあって中核となりあらゆる制御の対象となるものが、タンパク質が合成される際に設計図として用いられるmRNAである。

事実、それぞれのmRNAはRNA結合タンパク質やmiRNAの制御対象となり、対応するタンパク質の合成が制御されていることがわかってきた。そのため、タンパク質を創薬ターゲットとする創薬手法が主流であるこれまでにも、優良な創薬ターゲットタンパク質の枯渇と創薬競争の激化に伴い、mRNAを創薬ターゲットとして狙うことが想起された。実際にさまざまなmRNAをターゲットとして、さまざまな疾患を治療すべく各種核酸医薬品の研究開発が進んでいる。創薬のターゲットを現在のタンパク質からRNAへとシフトさせることによって、大量の創薬ターゲットが出現すると期待されている。

しかしながら、タンパク質に対する創薬が構造生物学の進展に伴い長足の進歩を遂げているのに比し、mRNAに対する創薬は理論的進歩に障害がある。そもそも、mRNAやウイルスゲノムRNAあるいはlncRNAなどの長鎖RNA中から、miRNA等の制御部位や創薬のターゲットとなるべき領域を探し出す手法についてすら開発の途に就いたばかりというのが現状である。mRNAがあらゆる制御機構の対象となるだけでなく、実際の創薬さえ進んでいるにもかかわらず、mRNAへの構造学的理解がほとんど進んでいないことに理由がある。

mRNAの構造を理解するためには、単一の構造を精密に解き明かす方向にのみ進化した構造生物学から離れ、一つの定まった構造をとらないmRNAに素直にアプローチせねばならない。そのため研究には、分光学的方法のみならず、各種の数学的手法、さらには分子生物学的理解を統合することが求められる。ここで、特定の研究費あるいは企業に依存せず、自由な研究を展開するために、本特定非営利活動法人(NPO法人)を、mRNAの構造と挙動を理解し、あらゆる疾患へ統一した治療方法を見つけ出す研究を集中的に推進し、新たな創薬基盤として世に送り出すことを目的として設立したい。本NPOの目的を広く紹介するとともに、賛同する研究者あるいは企業を会員に加え、議論および実験による検証を継続的に実施することによって、mRNAターゲット創薬を実現する。